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日産・キューブ [2012/11]

ウニはあまり好きな食べ物じゃないけど、
kinoborikyodai.jpg
忘れられない味のウニを食べたことがある。

20代前半のころ、
当時つきあっていたカノジョと東北旅行に出かけた。

仙台でレンタカーを借りて、
牡鹿半島へドライブ。

俺はクルマの免許を持っていなかったので、
運転はずっとカノジョの担当。

はじめのうちは歌など歌いながら
なかなか楽しいドライブをしていたのだが、
だんだん、
俺の方の機嫌が悪くなってくる。

なんというか、イラついてくるのだ。

クルマを運転できない、
カノジョの力がなければ先へ進めない、
なにもできないんじゃんか、俺……
というアホみたいな劣等感から、
米粒のようなプライドを自分自身で勝手に傷つけて、
しまいには
運転してるカノジョにケンカを売り始めるのだ。

「おまえ、俺のこと見下してない?」
みたいな。

あまりにも愚かしいのだが、
女性の運転する車で旅行している時には
実は何度もあったこと。

ホント、小さい人間だなー
と、自分のことながら思う。


日産のキューブというクルマは、
そういう“小さな自尊心”の持ち主を
満足させるのにはぴったんこのクルマだと思う。

四角くて個性的なボディ、
ぐるっと見回してから運転席に乗り込むと、
王様になったような気分になれる。

ものすごく小さくて、
地図にも載ってないような
小~さな国の王様なのだが。

クルマというのは、
多かれ少なかれ“王様気分”を味わえるものだと思うが、
このキューブというクルマは
その高揚感がかなり強い。

まず、運転している自分とクルマの姿かたちが
ものすごくイメージしやすくて、
なんだかステキな感じがして、
微妙に鼻が高くなる。

俺様のためのクルマなのだ、みたいな感じ。

実際に運転してみると、
車体は重めでエンジンのパワーが低いためか、
思ったように進んでいかないことがよくある。

足回りも、
堅いんだか弱いんだかわからないところがあって、
カーブの多い山道を走ったりしていると
リズムに乗れず、ちょっと疲れたりする。

ただ、
そんな運転具合の弱点すらも、

「いや、俺も大変なんだよ、
 言うこと聞かない出来の悪い国民を
 働かせて、
 面倒みなくっちゃいけなくてね」

なんていう
王様的プライドにすり替えることができるのだ。

目的地に到着、
不必要に重いドアをバタンと開け、
後ろから荷物を取り出し、
やっぱり重すぎるバックドアをバッターンと閉めると、
なにげに威張りたくなる。

こういう、
キューブを運転した後に感じる独特の疲労感は、
小さな自尊心を満足させるには
ぴったりなのだ。

そして、そんな超小さい自分のプライドを
再確認した瞬間、
20年以上前の恥ずかしい記憶が
よみがえってきたのだった。

牡鹿半島、
カノジョの運転するクルマの助手席で、
ケンカを売り始めてしまったことを。


気まずいムードの中、
半島突端の国民宿舎だか民宿にようやく到着した。

ケンカをしてしまったのは
俺自身の小さなプライドの問題で、
100%俺が悪いことは分かっているのだが、
その原因をどうにもうまく説明できなくて、
謝ることが出来ないまま迎えた夕食。

広い座敷の長テーブルに座ると、
ウニが出てきた。

それぞれの皿に2個ずつ、丸ごとのウニが。

驚きながらよく見ると、
トゲがウニウニと動いている。

まだ、生きているのだ。

上の方を包丁で開けられ、
そのまんまフタがしてある。

宿のおかあさんに言われた通り、
フタをとって、
スプーンですくって食べる。

ビックリするほど美味しかった。
こんなに清々しくて、
しかも甘いウニが世の中にあるとは思わなかった。

宿泊代は一人4000円くらいだったと思う。

こんな贅沢なもの出してもらって大丈夫なの?

宿のおかあさんにそう訊いてみたら、

「うちの子供が
 バケツ一杯50円で海からとってきたものだから」

と、笑っていた。

そんで、
その笑顔のおかげで、
俺たちは再び楽しく旅行を続けることが出来たのだった。

だから、俺にとってキューブは
ウニの味がするクルマなのだ。

潮の香が強いのにさわやかで、
めっちゃ甘いのに軽やかで、
でも、ちょっと苦くて
なんだかとっても恥ずかしい感じの味が。



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