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清水宏 [2016/01]

『清水宏』を観た。
iwainoumi.jpg
正確に言うと
『清水宏の海外コメディチャレンジ・セレクション』
というタイトルの
スタンダップコメディ、
というか一人芝居、みたいな舞台を観たのだが、
感覚としては

「清水宏を観た」

と観た人はみんな思うと思う。


下北沢。
前日夜から朝にかけて降った大雪が
いっぱい道路に残っている。
スズナリ劇場横のシアター711。


舞台の内容は、
コメディアンの清水宏が海外に出かけて行って、
外国の人たちの前で勝負した時の
喜怒哀楽奮闘絶叫ドキュメンタリー。

つまり、
自分の伝説を
自分自身で喋ったり演技したりしてみせる
まさに“自作自演”の物語である。

俺が観に行ったのはそのうちの
「エジンバラ躍進編」。
今回、1週間連続で公演される
“清水宏海外挑戦伝説集”のうちの一つ。

スコットランドのエジンバラで
毎年8月に開催されている
『エジンバラ・フェスティバル・フリンジ』という
世界最大の公演芸術祭に、
清水宏が初めて参戦した時の物語である。


スコットランドのエジンバラ。
世界中から大集合しているパフォーマーたち。

オレンジ色のジャージで、
日本語が通じる人のいない場所に参上して、
なんとかなりそうもない状況の中、
たくさんの人に笑ってもらいたいと気持ちだけを武器に、
いろんな人と出会って、
強引にいろんな人の懐に飛び込んで、
胸ぐらつかんで戦って、
なんとかなったかならないかわからないし、
勝負に勝ったか負けたかもわからないのだが、
出せる技は全部出した!
という感じ。


笑って、
というか無理やり笑わされて、
心が揉まれまくって、
でも急に“演劇野郎”の顔が出てきたりして、
油断してたところに突き刺さって、
ぐっときて、
涙なんかもポロリとこぼれちゃって、
と思ったらまた無理やり笑わされて、
あっという間の2時間だった。


この舞台、
すごく大雑把に言ってしまえば、
「自分のがんばり自慢話」なわけで、
演じる人によっては鼻につくと思うが、
清水宏の場合は鼻につかない。

それはなぜか。

「バカ」だから、
という部分もあるけれど、
それよりも
観ている俺たちもいっしょに
荒波に乗り出している感じがするからだろう。


清水宏は漕いでいる。
手漕ぎボートに乗って、
えんやこらこらさと進んでいる。

俺たちは、最初
ちょっとそのボートに乗せてもらうのだが、
なにぶん、小さなボートなので、
いっしょに乗ってると狭い。
汗も飛び散って、降りかかってくる。

しょうがないので、
自分のボートを持ってきて併走する。
隣りでそれなりに一生懸命漕ぐ。

で、併走して漕いでいると、

「こいつ、いつまでもバカでうらやましいな」

とか

「俺、汗かくのもうやめちゃったのかな」

とか、

嫉妬してみたり、
自分の人生を振り返ったりする。

そして、笑う。

下くちびるを少し突き出しながら、
あるいは口をへの字にしながら、
うふふえへへいひひあははと大声で笑う。

清水宏を観て笑いながら、
実は自分自身も笑っているのだ。
だからもちろん鼻になんかつかない。

自分自身を大声で笑えるのだ。
元気が出るだけである。


終演の時、
自分のボートを清水宏のボートに近づけていって、
軽くぶつけて別れる。

「じゃあまた」

俺も
自分自身の海とか川とか湖とかに出て
えんやこらこらさと漕いでいくんで。
また、
おめえがいる荒海で会うかもしんねえから、
そん時はひとつよろしくな。

さようなら。

小屋の階段を下りて、
握手を交わして、
下北沢の街を歩いていく。

半月の月が頭上で輝いている。
雪で濡れた地面も光っていた。


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