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『七夜物語』 [2017/10]

夕方4時。

ガラガラガラー、玄関のドアを開ける音。
「いってきまーす!」
スイミングスクールに出かける次男。
小学4年生。
タッタッタッタッ、
チャリンコ置場に走っていく。

二階から下をのぞき見る。
「あ、○○~」
次男の名前を呼ぶ声が聞こえる。
となりの小さな公園で
遊んでいる友だちの一人だろう。
ヘルメットをかぶってチャリにまたがる次男。
そのまま公園横の道に出て、
右の方へと消えていく。

スイミングスクールに行ったかな、
と思ったら向こう側の入り口から公園に入ってくる。
ふらふらとペダルを漕いで
クラスメートの女の子の横に乗りつける。
なにやら話しかけている。
次男の方に顔を向けないまま、
1メートルくらいの木の枝をブラブラさせている女子。
気がなさそうに一言二言つぶやく。
くるっとチャリを反転させて
道を走らせていく次男。
今度こそスイミングスクールに向かったらしい。

クラスメートの女子は
持っていた木の枝をグルグルと回している。
回したまんま、自分の真上に投げる。
落ちてきた木の枝をさっとよける。
一瞬下を向いて足元の木の枝を見つめていたが、
拾わずに
そのまま放っておいている。

次男の友だちの弟が
その木の枝を拾って駆けていく。
小学1年生。
ゾウさん型の滑り台の前まで行って、
どうしようか迷っていたが、
木の枝をぽとっと手放して
回り階段を登っていく。
ずるずるーっと滑り台から降りてくる。
降りた先にボールが転がってくる。

バレーボール。
小学6年生の女子たち4人が輪になっている。
レシーブとトスの練習。
1、2、3、4、
ミスしてまたボールが転がっていく。
転がってきたボールを軽く蹴り返す男子。
そのまんま手を傘のように開いて、
くるくる回りながら
繰り返しジャンプする。
彼も次男のクラスメートで小学4年生。
回転ジャンプに飽きたのか、
欅の木の向こう側に隠れてから、
ひょいっと顔を出す。
ブランコを見る。

ブランコでは女子3人組が
一つのブランコに乗ってキャラキャラと笑っている。
たぶん、小学3年生。
一人がブランコから飛び降りて、
ケンケンしながら右足のズックをちょっと履き直し、
水飲み場のほうに駆けていく。

先が球形になっているタテ型の水道。
横の蛇口をキュッと回す女の子。
ビューッと出しすぎるかなーと思ったけれど、
普通に20センチぐらい上がって止まる水。
一口飲んで、
蛇口を閉めようとするが、手を止める。
後ろで幼稚園児らしい小さな男の子が
水を飲もうと
ニコニコと近寄ってきていたからだろう。


いつもの風景。

キンコンカーン。
そのうち、夕方5時のチャイムが鳴って、
子供たちはだんだんいなくなっていく。

家に帰って、
風呂に入ったり、
夕飯を食べたり、
母親や父親にうながされたりしながら
宿題をやったりするのだろう。

  ◆

川上弘美著『七夜物語』を読んだ。

朝日文庫。
上・中・下の3巻。

小学4年生の女の子、鳴海さよと
そのクラスメート、
仄田(ほのだ)鷹彦くんの冒険譚。

「夜の世界」に滑り落ちた少女と少年――
さよちゃんと仄田くんは、
囚われそうになったり、
脱出できなくなりそうになったり、
おいしいものを作ったり、
仲間を助けるために闘ったりしながら、
「現実の世界」と「夜の世界」を
行ったり来たりして、
少しずつたくましくなっていく。

成長しながら、
何かを獲得したり、
何かを失っていく。

七回に渡って「夜の世界」を探検するから
『七夜物語』。


物語は、
図書館でさよちゃんが『七夜物語』という
分厚い本を見つけたことから始まるのだが、
このファンタジー物語、
読んだらすぐに
書いてあった内容を忘れてしまうという
少々やっかいなもの。

なので、思う。
俺たちも実は
かつて、
どこかの図書館で、
さよちゃんのように『七夜物語』を見つけて、
手にとって、
読んだことがあるのかもしれないと。

そして、
「夜の世界」に滑り落ちて、
大ネズミに料理を習ったり、
でかいエイに乗って太古の海に飛び込んだり
していたかもしれないなーと。

でも、そのことは
すっかり忘れてしまっているけど。

ただ、
どこか記憶の底に
その時のわくわくドキドキが残っていて、
何かのひょうしに……
たとえば、
公園で遊ぶ子供たちを見た時とかに
記憶が呼び起されて、
ゆらゆらと
浮かび上がってくるのかもしれない。

だから、
子供たちを見ていると、
なんだかうらやましい気持ちに
なってしまうのかもしれない。

彼らは、
『七夜物語』を読んで、
「夜の世界」を冒険している
真っ最中だから。

そしてその冒険には
俺たち大人は
もう加わることができないから。

「子供たちよ、いってらっしゃい」
と送り出すことしかできないから。

でも、
口笛を吹くことはできる。
歌を歌うことはできるので、
それでよしとしようか。

そう思いながら本を閉じた。


さてさて、
この『七夜物語』、
いろんなことに疲れたりして、
心が固くなっちゃったときにオススメ。

何が正しくて何が間違ってるとか、
これは悪でこれは善だとか、
そんなふうにパキパキ決めないと
やってられなくなったら、
それは心が疲れてる証拠でしょう。

できたら、
夕暮れの散歩をしてるみたいに
読んでほしいなーと思います。

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