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『かもめ』と『8 1/2』 [2013/09]

渋谷のシアターコクーンで
芝居『かもめ』を観た。
ボーダー灯台.jpg
もともとの原作はチェーホフ。
ケラが訳して台本を書いて演出したもの。

面白かった。

最初、笑っていいのかいけないのか、
微妙に困る雰囲気が漂っていたが……

主演の生田斗真が、
劇中劇の演出をするため、
蒼井優の動きに合わせて
操り人形師のように動くのをきっかけに、
観客もくすくす笑い、
心をほぐしてリラックスしていった。

生田斗真の役は、
母の愛と、恋人っぽい少女の恋心と、
コントロールできない自尊心のために、
自分でもよくわからない
前衛的な芝居を創ろうとしている若き青年。

彼の役柄というか心境が
最近の俺にとってはちょっとわかるものだったので、
6割客観的に、
残り4割は感情移入して観れた。

上から目線でニヤニヤしながら、
舞台目線でむーんとうなる感じ。


後半の第四幕、
物語はいきなり深刻な状況になるのだが、
だからと言って心が離れることもなく、
生田斗真と蒼井優の間を
ゆらゆらくらくらと漂うことができた。

特に、第四幕での
お医者さんと病気のおじさんの掛け合いは、
ふたりの友情の形に
ちょっぴりじーんときてしまった。


観終わった次の日も
生田斗真の真面目可笑しい顔や、
大竹しのぶのはっちゃけた姿、
野村萬斎のシニカルな笑顔などが
頭に焼け付いていて、
なんだかもう一度観たくなった。

そして、
この前観たケラの芝居、
ナイロン100°℃の『わが闇』がまた観たくなった。

あーんど、
フェリーニの映画『8 1/2』がなぜだか観たくなった。

なぜだろう?

疑問を持ったまま、
ブルーレイを借りてきて、久しぶりに『8 1/2』を観た。
ああそうか、と思った。


『わが闇』という芝居は、
『かもめ』という戯曲に対するケラの解答、
もしくはチェーホフに対する返答なのだ。
たぶん。

だが、
俺には返答するような手段がない。
戯曲を書いてもいないし、
芝居を作ってもいない。

だから、
自分の代わりに返答してくれるものを
無意識の中で探していたのだ。

それが映画の『8 1/2』。


『かもめ』の主人公が、
もしも、カモメを撃ち殺さなかったら……
もしも、蒼井優の無垢さを
自分だけのものにしようと思わなかったら……
もしも、自分が抱える“闇”と
一緒に生きていこうと決心できたら……

その解答と返答を見せてくれるのが
『8 1/2』の主人公、
マルチェロ・マストロヤンニ演じるグイドであり、
フェリーニという監督なのだ。

もちろん、俺にとってだろうけど。

赤ん坊のように愛を欲しがり、
混乱を抱えたまま、
『かもめ』の生田斗真が成長していったら、
きっと
『8 1/2』のマストロヤンニになったと思う。

「人生は祭りだ!」

とか勝手なことを言って、
また新しい芝居や映画を作っていくのだろう。

いいか悪いかはわからないけど、
そういう考え方が
やっぱり俺は好きなんだろうな、
と、ニノロータの音楽を聴きながら思った。





『風立ちぬ』 [2013/09]

かーぜー立ちーぬー、
いーまーはあ、あきー。
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松田聖子の歌を歌いながら、
映画『風立ちぬ』を観に行った。

観始めてすぐ、
夏休みに行った気仙沼大島のことを思い出した。

気仙沼からフェリーに乗って20分くらい。
気仙沼のちょっと沖にある大島。

その行き帰りのフェリーで、
子どもたちと一緒に
ウミネコにかっぱえびせんをあげた。

海の上を走り出したフェリー、
何羽も何羽も飛んでついてきて、
かっぱえびせんを放り投げてくれるのを待っている。

ひょいっと、一本ずつ投げる。

パクッと
うまく口でキャッチできるウミネコもいれば、
ポチャッと
海に落ちたのを拾うヤツもいる。

すぐそこ、
目の前を飛ぶウミネコを見るのは、
ちょっとした奇跡を見るようでとても楽しく、
飽きることなく、
驚いたり感嘆の声をあげたりした。

その姿を、
美しい造形を表現するのは難しいなと思った。
写真に撮っても、
ときめきみたいなものは伝わらないなと思った。


サバ味噌煮に入っていた骨を持って、
その線を描きたい、
その骨の先にあるドキドキを描きたい、
というのが
この映画『風立ちぬ』の主人公、
堀越二郎。

実在の人物。
零戦というか、
そのもととなった試験機、
九試の設計をしたエンジニア。

少し前に、
たまたま所沢の航空公園に行ったら、
堀越二郎の生涯を特集していて、
ある程度の史実は知っていた。

で、

この映画の中の堀越二郎は、
宮崎駿監督本人であり、
声優を担当した庵野秀明であり、
そして、
かつてたくさんいただろう
未来に対するイメージを
実現しようとした日本人だった。

誰かに伝えることがとても難しい
ときめきを
形にしようとした挑戦者だった。

だから、
この映画の主人公は、
これからたくさんの夢を追いかけていく
日本人たちでもある。

観ているうちにそう思った。


気仙沼大島をクルマで回ると、
まだまだ復興の途中だってことがわかる。

コンクリートで修復された階段や
護岸工事が始まっている場所もあれば、
まだ
手が付けられてない感じの船着場もある。


『風立ちぬ』の堀越二郎といっしょになった
宮崎駿や庵野秀明や、
それから映画を観た俺たちは、
今度はウミネコになって飛んでいく。

見えない未来に向かって飛んでいく。

きのうはくーもーりぞらー、
そとーにでーたくーなかったのー。

気がつくと、
帰りはユーミンの『曇り空』を
口ずさんでいた。

ユーミンのアルバムで
『ひこうき雲』の次に入っていたのが
この曲だったんだな、確か。



『パシフィック・リム』 [2013/09]

映画『パシフィック・リム』を観た。
ナナフシ.jpg
初めての3D映画体験だったが、
なかなか楽しかった。

『パシフィック・リム』は
怪獣が最高に凶悪でカッコよかった。
ロボットも、
こういう形のロボットが好きなんだよなー
ってのが
ガシンガシン動いてくれてうれしかった。

おまけに、
『ゴジラ』だったり、
『マジンガーZ』だったり、
『仮面ライダーW』だったり、
日本人を褒めてるみたいな気がしてくる
アイディアやシーンがいっぱいで
心をくすぐられた。

んで、
巨大ロボットには、夜がよく似合うなーと思った。

たぶん、
『鉄人28号』が、
アニメのタイトルバックか何かで
夜の空を飛んでいたからだと思う。

家に帰ったら
「今晩は十五夜だ」
と近所のおばさんに教えられた。

ということで、
夕飯は外メシにした。

枝豆をゆで、
牛串焼きを作って焼き、
混ぜご飯のおにぎりを握って、
子どもたちを連れて公園に行った。

中秋の名月を見ながら、
子どもたちは三ツ矢サイダーを飲み、
親たちはビールと日本酒を飲んだ。

『パシフィック・リム』で残念だったのは、
パイロットたちがどんなふうに怪獣を見ているのか、
その視界がよくわからなかったことだ。

そのため、
パイロットの気分に入って行けず、
いまいち臨場感がなく、
巨大ロボットを動かしている感じが足らなかった。

「団子を買おうと思ったけど売り切れててなかったのよー」

と、近所のおばさんにもらったおはぎを食べた後、
子どもたちは夜の公園で走り始める。

鉄棒で
逆上がりの練習をしている。

なかなか、うまく出来ない。

特に長男はそういうタイプなのだ。

腰の後ろに手拭いを通してやって、
鉄棒をいっしょに掴んで回らせたら、
まあ、一応逆上がり出来た。

親の俺も、
隣の鉄棒でぐるんと逆上がりしてみた。

視界がひっくり返って、
夜の公園が回って、
で、回りきらずに鉄棒の上で止まってしまった。

力ずくで一回りした時、
煌々と明るい満月が見えたように思った。

見えた気がしただけだが。



『犬、だれる』 [2013/09]

友達が出演してる芝居、
劇団HOBOの『犬、だれる』を観てきた。
ウミネコ.jpg
最果ての<南の島>、
一軒の貸家が舞台。

東京からなんとなく逃げてきて、
小さな平屋の貸家に住んでいる男と女。

貸家の管理人をしている“オオヤ”さん。

少し前に東京あたりから逃げてきたツアーコンダクターの金貸し。

もっと前にどっかからやってきてスナックをしてるママ。

地元の役場で観光課の仕事をしてる独身男。

島のお巡りさん。

貸家の持ち主が置いていった犬。

そして、貸家の住人である女の妹が、
“東京の”浦和からはるばる会いに来て、
話は始まるともなく始まっていく。


物語のテーマは、

みんな
自分を自分で可愛がるのは結構難しいから、
おバカさんになって笑ってみたり、
自分以外の誰かに頼ったりして、
なんとかかんとか
自分を可愛がって生きていこうよ。

というもの。

だもんだから、
登場人物はみんなアヤシイというか、
ちゃんとしてないというか、
テキトーという感じで生きている。

泡盛を飲んで
島唄を歌いながら踊ったり。
幻の魚の刺身を食べて
紙オムツを履いて踊ったり。

心地いい”うさん臭さ”が
南の風と一緒にぷかぷか漂ってくる。


観ていると、一瞬、
ああ、南の島とか行って暮らしたいなー、
とか思うけど、
やっぱ、いいや、
今、住んでるこの場所でも
十分”うさん臭い”毎日を送ってるもんなー、
べつに南の島で暮らさなくてもいいんじゃねえの、
と思い直す。


友人が演じていた
管理人の”オオヤ”さんは、
島に昔から住んでいる住人……
というような設定だったが、

観ていると、
実は一番”うさん臭く”、

もしかしたら、
ほかの人よりもっと前に
東京とかどっか遠くから逃げてきて、
何食わぬ顔で
地元民っぽく生きてるだけの人間で、
登場人物の中で最も
“自分を可愛がるのが下手だった人間”
だったんじゃねえの……
という気がした。

なんでそんな風に感じるのかなー
と考えてたら、
それって、
今、井の頭に住んでる俺自身も結構、
地元民っぽい顔して
ぶらぶらしてるからじゃねえのかな、
と思い当った。


イノカシラ~のォ
おじじとおばばが
ムサシノの~
風に向かって屁をこいた~

アハ♪




『桐島、部活やめるってよ』 [2013/09]

録画しておいた映画『桐島、部活やめるってよ』を観た。
ライオンの顔.jpg
観ていて、
この映画は二つの見方があるなーって思った。
特に男にとっては。

一つ目は、
出てくる高校生たちの誰かに自分を重ねて観る方法。
もう一つは、
出てくる高校生の誰かを応援しながら観る方法。

で、
俺の場合、今回はあとの方、
登場人物の誰かを応援しながら観るタイプだった。

誰を応援したいのか?
誰と友達になりたいのか?
誰と話をしたいのか?


男の登場人物は、

映画部のめがね君。
その友達の太っちょ君。
元野球部のなんでもできる君。
その友達のチャラオ君。
もう一人の友達のパーカー君。
野球部の先輩さん。
バレー部のゴリ君。
バレー部のリベロ補欠君。

女の登場人物は、

桐島のカノジョで容姿端麗な女王ちゃん。
その友達のギャルちゃん。
バトミントン部の美少女ちゃん。
その友達のシスコンちゃん。
吹奏楽部の部長ちゃん。
先輩が好きなフルートちゃん。

そんな感じ。

元自主映画青年だった俺としては、
映画部のめがね君は、
もうホント、
実際にそばにいたんじゃないかってくらい
リアルな友達な感じなんで、
自然に贔屓しながら観ていた。

屋上で映画を撮ったりしてるのを見ると、
思い出すことがいっぱいで、
映画を観ながらニヤニヤしていたと思う。

吹奏楽部の部長も、
こりゃまた似てるやつが友達にいて、
今はもう47歳くらいなんだけど、
高校時代はさぞかしこんな感じだったんじゃないかと、
想像せずにはいられなかった。

ただ、
最後には、
一番応援したいのはその二人ではなく、
パーカー君になっていた。

パーカー君は、
バスケットボールが好きだ。
でも、帰宅部だ。
なんでかっていうと、
バスケットボールが下手なのだ。

いつもは三人でいる校舎の裏側。
ひとりになったシーンでも
彼はバスケットボールをだらだらとゴール向かって投げている。

投げているんだけど、
全然シュートが入らない。
何度やっても入らない。

コイツだなと思った。

べつに親友とかになるわけじゃない。

ただ、
くだらないことを延々と話したり、
ときどき酔っぱらってケンカしたり、
気が向いた時に温泉かなんかいっしょに行くのは、
たぶん彼だと思った。


秋田の北に能代というところがあって、
車を乗っているうちにたどり着いた。

何年か前、
義理の弟の結婚式に出席するため、
一度行ったことがある。

その後、
義理の弟は離婚したので、
もう縁がなくなった土地なのだが、
なんとなくたどり着いた。

夜、
居酒屋に行った。

ジュンサイ鍋とかを食べながら、
地元の日本酒を飲んでいるうちに閉店の時間になった。

そしたら、
「上がり酒、一杯どう?」
と、ご主人が酒瓶を持ってきてくれた。

一杯どころじゃなかった。

上がり酒だけで三四合飲んだと思う。

店が閉店したので、
隠れていた猫がのしのしとやってきて、
その様子を見ながら、
ご主人から注がれる酒をどんどん飲みながら、
いろいろと話をした。

お店のこと。
最近大変だったこと。
生まれ故郷。
猫の秘密。

とんでもなくうまい酒だった。


あのご主人も、
もし、『桐島、部活やめるってよ』を観たら、
誰を応援するのだろうか?

たぶん、登場人物全員を応援するのだろう。

だからこそ飲み屋やってんだもんな、
上がり酒を出してくるんだもんな、
と思う。

映画には出てこなかったが、
部活をやめた桐島君は、
あのご主人みたいな人なのかも、
とも思った。



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