SSブログ

田代島 猫旅日記 その4 [2015/04]

tashirojimazenkei.jpg

『田代島 猫旅日記』その4

クールにたむろってる大泊の美猫に
後ろも振り返らずサヨナラして、
来た道と違う道で仁斗田の集落に戻る。

ちょっと不安になって、
軽トラのおじさんと話をしている
箒を持ったおじさんに道を尋ねる。

こっち行くと、猫神社とか仁斗田の方ですか?

「んだね。まっすぐ行くと猫神社だ」

まっすぐですね?

「まっすぐと言っても、曲がってるところもあるから、
 そん時は道なりで」

はい!

「途中の脇道入ると、
 出てこられなくなって、
 一生そこで暮らすことになるから」

箒のおじさんの笑い声を聞きながら、
帰り道の坂を上っていく。


『猫神社』の横を通りすぎて、
nekojinjakanban.jpg

おいおいこんなところまで来てるのかと
「ネコ太郎」の行動範囲の広さに驚いて、

下り坂を歩いて、

民宿に一度戻って、

いつのまにか好きなタイプになった
白黒ブチ猫の頭をなでて、

他の猫もぼやーっとながめて、
heineko.jpg

子供たちと荒れた海に向かって石を投げて、

お昼ご飯はカップ麺のうどんを食べて、

またいろんなところで猫をながめて、
nakayoshineko.jpg

今度は荒れてない海に向かって石を投げて
子供たちと水切りの回数競争をして、
ishinagekyodai.jpg

「ちゃめ子」と同じ目つきの猫に出会って
その意外な血の広がりに感心して、

またぼんやり猫をながめて、
neko3biki.jpg

田代島の一日が終わっていった。


二泊目の夕飯は
小さめのホヤを煮た料理がうまかった。
ずっと食べ続けていたい味だった。
試しに、
ウイスキーの水割りの缶を開けて
ホヤといっしょに味わってみたが、
かなりいける味だった。

世の中、
知らないことが多すぎるなと思った。
ninomiyakinjironoup.jpg

前夜とは違う写真集、
でもやっぱり田代島の猫の写真集を
子供たちに読んでやって、
自分の布団に入って目を閉じる。

窓ガラスを叩く風の音がしない。

プロが笑顔で言っていた通りだった。

翌日、
『網地島ライン』は通常通り運航した。

tashironeko2.jpg

右足の親指をかばって歩いていたせいか、
今度は左足の甲が痛くなった次男と
船着場へ向かって
ゆっくり港の堤防を歩いていたら、
トムキャット柄の黒白猫がついてきた。

その後ろから、モサモサの茶色。

そして、その後ろから白黒の猫……。


石巻行きの船が来た。
船に乗り込む。
窓から堤防を見たら猫が三匹並んでいる。

お見送りしてくれてるのか。
いや、どっちかというと、
誰か降りてこないかと見に来たんだろう。


船が出ると同時に、
トムキャット猫が
もといた網置き場の方へと
歩いていく姿が見えた。


      『田代島 猫旅日記』おわり

ajisimalinenokodomo.jpg

      →その1からまた読む?
      →その3に戻る

田代島 猫旅日記 その3 [2015/04]

tashirojimazenkei.jpg

『田代島 猫旅日記』その3

ピンポンパンポーン。

朝、5時半ごろ、
民宿で目が覚めてぼやーっとしていたら、
島内放送が聞こえてきた。

「本日、7時40分の石巻行の網地島ラインは
 欠航となりました」

というようなことを言っている。

やっぱりだー。
80%の確率だもんな。
今日は船が出ない。
田代島でもう一泊することが決定。

aretaumi.jpg

ヒジキ煮と
海藻入りの味噌汁がたまらない
朝ごはんをいただいて、
またまた島の散策に出かける。

とりあえず、
「おかあさん」こと「ちゃめ子」に
挨拶したいという次男と近所に出かけて、
猫をながめていたら、
なぜだか次男が足を痛めている。

どこでなにしたんだか、
本人も分からないが
とにかく右足の親指が痛いらしい。

しょうがない。
足が痛くて歩くのが嫌な次男と
“朝は布団が大好き”な長男を民宿に残して、
田代島のもう一つの集落、
大泊まで行ってみることにする。


結構しんどい坂道を上って、
帰りにまた上るかと思うと
ずーんと気が重くなる坂道を下って、
大泊の集落に到着。

oodomarinekomark.jpg

大泊には猫がいないという噂を
ネットかなんかで仕入れていたのだが、
実際には、猫はいた。

数は少ないが、
6匹くらいの集団でたまっている。

近くを通ると、
そのうちの一匹が少しだけ近づいてきた。

軽くなでたが、
すぐにさっと身を引いた。
全般的に仁斗田の猫ほど
知らない人間にはなついてないようだ。

何より違うのが、
この大泊で出会った猫たちは、
わりと脚が長く、
顔も体もすらーっとしていることだった。

言ってみれば、美猫の一族だった。
俺の好きなタイプだな、と思った。


ツイッターやら
フェイスブックを使うようになってから、
自分の人生で大きく変わったことが一つある。

他人が飼っている猫、
しかも、かなりカワイイ猫を
「自動的に見せつけられる」ようになったことだ。

猫や犬が飼えない借家に住んでいる身としては、
かなりうらやましい気持ちにさせられる。

実際、
猫や犬を飼える家に住んでいたとしても
飼わない可能性は高い。

だが、人間というのは
「ないものねだり」が激しい動物だ。

人様の愛する猫を見せられるだけで、
自然、
妬みとか敗北感を
胸の中にふつふつと湧き上がらせているのだ。


そんなことを
田代島大泊地区の美猫、
わりと好きなタイプの猫を見ながら考えていた。

その時、自分の中で起こっている
ちょっとした異変に気がついた。

今、
グレイの美猫を目の前にして、
思い浮かべているのは
仁斗田の白黒ブチ猫なのだ。

shirokurobuchi.jpg

「ちゃめ子」の後ろから現れる
もしかしたら「ちゃめ子」の息子かもしれない
太った丸顔のブチ猫。

目からヤニが出まくっていて、
脚も短く、
歩き方もよたよたしていて、
今までの俺の価値観では
「あんまり好きじゃないタイプ」の猫が、
目の前の美猫よりも
好きになっていることに気づいたのだ。


仁斗田集落と大泊集落の
真ん中あたり、
山を上って行ったところに
田代島小学校の跡地がある。

廃校となった小学校。
tasirojimashougakkou.jpg

校舎は取り壊されていてすでにないが、
体育館と、
二宮金次郎像は立っていた。

二宮少年の像と
白黒ブチ猫の顔を思い出しながら、
旅効果だなと思った。

ninomiyakinjjiro.jpg

自分自身でも知らなかった
自分の嗜好や楽しみを知ること。
そのために
田代島まで来たのかもしれないと思った。


        →その4に続く
        →その2に戻る


田代島 猫旅日記 その2 [2015/04]

tashirojimazenkei.jpg

『田代島 猫旅日記』その2

一息ついたところで、島散策へ。

仁斗田で一つだけある商店の前、
若いお兄さんがカップ麺の蕎麦を
階段状の地べたに座って食べている。
その周りに群がっている猫。
15匹くらい。

上り坂を登っていく。
また、猫の集合場所がある。
8匹ぐらい。
見ているとその中の一匹が寄ってくる。
すると、
もう一匹が近づいてくる。
すると、
また別の一匹も近づいてくる。
daburuneko.jpg

こういう猫のたまり場所が
この田代島にはいくつかあるのだが、
同じようなことがどこでも起きる。
好奇心が強いのか、
人間が好きなのか、
食べ物が欲しいのか、
とりあえず一匹が近寄ってくると
他の猫もなんとなく近づいてくる。

そして、
その場を去っていくと、
一匹か二匹がしばらく後をついてくる。
振り返ると、猫がいる。
だるまさんがころんだ、みたいな。

また、
ひとつのたまり場の猫たちは
なんとなく目つきが似ている。

シマ猫、ブチ猫、黒猫、茶色猫、灰色猫、
短毛なの、モサモサなの……
色や柄や毛の長さは違っても、
同じ一族な感じがする。
いろいろなパターンで血がつながっているのだろう。


上り坂をもっと登っていって、
大泊集落方面へ降りるちょっと手前、
田代島名所のひとつ、
『猫神社』にお参り。

nekojinja.jpg

ふと見ると、
ベンチの上で寝ている大きめの猫。
顔が丸く太ったシマ猫。
おっさんぽい。

横に座ってなでていたら、
母娘がやったきたので、
こんにちはーと挨拶したら、
その中学生くらいの娘が
感激丸出しの声で叫んだ。

「ネコ太郎!」

聞けば、
このおっさんぽい猫のネコ太郎、
けっこう有名な猫らしい。
ネコ太郎ブログもあるんですよと
お母さんのほうが教えてくれた。

nekotaro.jpg

民宿にいったん戻って、
道具を持って、釣りをするため堤防へ。

魚影が薄い。
というか、まるでいない感じ。
まあ、釣れなくてもいいやと
青イソメを針につけて糸を垂らす。

ajisimanoturi.jpg

やっぱりアタリがないなあと思いながら
ふと横を見ると、
猫がいる。
遠めから近づいてる最中の猫も数匹。

仁斗田港周辺の一族には、
顔が丸く大きいタイプが多い。
脚が短めなのは、
仁斗田集落の猫全般の特徴。

魚、こないねえ、
まだ眠ってるのかなあ……
などと猫に話しかけたりしながら
数か所で糸を垂らしてみたが、
釣れる気配がない。
風が冷たくなってきたので竿をしまい、
民宿へ戻ると、また
「おかあさん」とその仲間が迎えてくれた。


夕飯まで少し時間があったので、
『マンガアイランド』という場所にも行ってみる。

ネコ型のロッジがいくつか建ったキャンプ地。
シーズンオフで今は閉まっているが、
猫は10匹くらいたまっている。

nekoisland.jpg

左目が病気で潰れかかったシマ猫と
右目がない茶色モサ猫が、
追いかけっこをしながら、
コンビで後ろをついてくる。

茶色モサのほうは妊娠しているのだが、
時折、すごい勢いでジャンプしたり
いきなり走り出したりするので、
いっしょに歩いているこっちが不安になる。
何の心配もいらないのだが。

nekoislandcupple.jpg

アワビとナマコ。
大好物。
俺にとって最高のご馳走が入った夕飯をいただき、
風呂で温まってから、
布団に入る。

絵本の代わりに、
民宿に置いてある写真集を子供たちに読んでやる。
田代島の猫の写真集。

すると、
俺たちが「おかあさん」と呼んでいるシマ猫は、
この民宿のお父さんが飼っている
「ちゃめ子」という名の猫だとわかった。

小柄で、じゃれついてくるから
若い母猫かなあと思っていたら、
けっこうなベテラン母猫であることもわかった。

電気を消して、目をつぶる。

ヒュー、ぎしっ。

窓が揺れる音を聞いて、
風が強くなってきたなあと思いながら
眠りについた。

        →その3へ続く
        →その1に戻る


田代島 猫旅日記 その1 [2015/04]

tashirojimazenkei.jpg

『田代島 猫旅日記』その1


猫の島、宮城県の田代島に行った。

と言ったら、
猫好きの人たちの反応が次々と返ってきた。

「田代島行ったんだ!
 なんで、どうして、私も行ってみたーい」

的な。

むむ。
有名なんだな、田代島。
その田代島になぜ俺は行ったんだろう?
振り返ってみる。


春休みだ、どっか旅行に行こう!
と思ったところで、まず、
「東北」か「東北じゃない」かの選択がある。
旅行を計画する時、いつものこと。
放射能とかの話じゃなく、
時間的距離的な問題として。

今回は東北に行けそうだ、ってことになって、
じゃ、東北のどこに行こうかと考える。

この前観た映画『くちびるに歌を』を思い出す。
島がいいなと思う。
ガッキーみたいに船に乗っていくのがいいなと思う。
ただ、そうすると少し時間がかかる。
何かと文句を言う生意気次男がうるさいかもしれない。

じゃあ猫だ。
猫の島なら、
動物好きの次男はぶつぶつ言わないだろう、
ということで、
どっかで猫の島だと聞き知っていた
田代島を目的地にしてみた。

じゃあ宿だ。
田代島の宿は楽天トラベルとかじゃらんでは
予約できない。

一番ご飯が旨そうな気がする…
そう思って『網元』という民宿に電話した。

4月2日に一泊したいんですけど。
おばあちゃんがちょっと間をあけてから、

「猫見にくるんかい?」

と言ってくれて、
そうですそうですと答えて、予約できた。
よかった。

仙台に前乗り、一泊して、
次男の同じ名前の青葉城跡に登ってから、
aobajo.jpg

石巻にある『網地島ライン』の船乗り場へ。

ここから田代島への船に乗る。

11時52分、出発の8分前、
急ぎ足でチケット売り場に入ったら
『網代島ライン』の人が訊いてきた。

「日帰りかい?」

いいえ、一泊します。

「うーん、明日は船、出ないかもよ」

え?

「出たとしても、朝7時40分の船だけかなあ」

マジですか?

「まあ、朝一番の船も80%出ないと思う」

80%欠航。なんで?

「明日は風強いから」

天気荒れるんだ、今日はこんなに快晴なのに。

「泊まると明日帰ってこれないかも。どうする?」

ちょっと悩む。
もう時間がない。
明後日は? 船出ます?

「あさっては……たぶん大丈夫だな」

その笑顔にプロの自信を感じた。
じゃあ、行きます。
船乗ります! チケット買います!!

チケット購入は自販機。
でも、なかなか千円札が入っていかない。
『網地島ライン』の人が
上手に千円札を入れてくれては
ボタンを押してチケットを買ってくれる。
コツがあるのだ。

足早に船に乗ったら、
船はすぐに港を出た。
ajishimaline.jpg

船に乗ること約45分……
同じ田代島の大泊港に寄ってから、
仁斗田港に到着。
ちょっとドキドキしながら船を降りる。
降りたのは俺たち家族を含めて7人。
船はこの後、終点の網地島へと向かう。

堤防を歩いていると、
向こうから電動バッテリーカー、
いわゆるシニアカーに乗った
民宿のおばあちゃん、
いや、おかあさんと呼びたい感じの
ご婦人が迎えに来てくれているのが見えた。

む。むむむ。
お約束通り、そこやここやに猫がいる。
でもなんか思ってたのとちょっと違う。
長毛種が多いのだ。
モサモサが半分くらい。
mosamosa.jpg

猫に忍び寄ったり、かまったりして、
まっすぐ歩かず進むのが遅い子供たち。
それを待って、時々シニアカーを止めながら、
おかあさんが
民宿まで案内してくれた。


部屋に荷物を置いたところで、
とりあえずご相談。

明日は船が欠航するかも……
と、船会社の人が言っていたんですが。

「あらまあ」

出るとしても朝7時40分の便なので、
もし出たらそれで帰るつもりですが、
もしその船も出なかったら、
すみませんが
もう一泊泊めてくれませんか?

「明日、お客さん来るんだよねえ」

と予約状況に頭を巡らせるおかあさん。

でも、そのお客さんたちも船が出なかったら
島にはやって来れないので、
当然、部屋は空くことになる。
ので、大丈夫。
欠航の時には一泊の追加をOKしてもらう。
ああ、よかった。

ホッとしながら玄関を出ると、
さっそく猫が寄ってくる。
一匹、二匹、三匹四匹五匹六匹……
tashironeko1.jpg
一番最初にやってきた
小さめのシマ猫が、
ごろんごろんとお腹を見せる。

妊娠してるじゃん。

耳の後ろを掻いてやると、
じゃれて甘噛みしてくる。

とりあえずこのシマ猫を
「おかあさん」と呼ぶことにする。
chameko.jpg


          →その2に続く

田代島 後編 [2015/04]

猫の島、田代島へ行った…のつづき。

tashironeko2.jpg
ピンポンパンポーン。

朝、5時半ごろ、
民宿で目が覚めてぼやーっとしていたら、
島内放送が聞こえてきた。

「本日、7時40分の石巻行の網地島ラインは
 欠航となりました」

というようなことを言っている。

やっぱりだー。
80%の確率だもんな。
今日は船が出ない。
田代島でもう一泊することが決定。

ヒジキ煮と
海藻入りの味噌汁がたまらない
朝ごはんをいただいて、
またまた島の散策に出かける。

とりあえず、
「おかあさん」こと「ちゃめ子」に
挨拶したいという次男と近所に出かけて、
猫をながめていたら、
なぜだか次男が足を痛めている。

どこでなにしたんだか、
本人も分からないが
とにかく右足の親指が痛いらしい。

しょうがない。
足が痛くて歩くのが嫌な次男と
“朝は布団が大好き”な長男を民宿に残して、
田代島のもう一つの集落、
大泊まで行ってみることにする。


結構しんどい坂道を上って、
帰りにまた上るかと思うと
ずーんと気が重くなる坂道を下って、
大泊の集落に到着。

大泊には猫がいないという噂を
ネットかなんかで仕入れていたのだが、
実際には、猫はいた。

数は少ないが、
6匹くらいの集団でたまっている。

近くを通ると、
そのうちの一匹が少しだけ近づいてきた。

軽くなでたが、
すぐにさっと身を引いた。
全般的に仁斗田の猫ほど
知らない人間にはなついてないようだ。

何より違うのが、
この大泊で出会った猫たちは、
わりと脚が長く、
顔も体もすらーっとしていることだった。

言ってみれば、美猫の一族だった。
俺の好きなタイプだな、と思った。


ツイッターやら
フェイスブックを使うようになってから、
自分の人生で大きく変わったことが一つある。

他人が飼っている猫、
しかも、かなりカワイイ猫を
「自動的に見せつけられる」ようになったことだ。

猫や犬が飼えない借家に住んでいる身としては、
かなりうらやましい気持ちにさせられる。

実際、
猫や犬を飼える家に住んでいたとしても
飼わない可能性は高い。

だが、人間というのは
「ないものねだり」が激しい動物だ。

人様の愛する猫を見せられるだけで、
自然、
妬みとか敗北感を
胸の中にふつふつと湧き上がらせているのだ。


そんなことを
田代島大泊地区の美猫、
わりと好きなタイプの猫を見ながら考えていた。

その時、自分の中で起こっている
ちょっとした異変に気がついた。

今、
グレイの美猫を目の前にして、
思い浮かべているのは
仁斗田の白黒ブチ猫なのだ。

「ちゃめ子」の後ろから現れる
もしかしたら「ちゃめ子」の息子かもしれない
太った丸顔のブチ猫。

目からヤニが出まくっていて、
脚も短く、
歩き方もよたよたしていて、
今までの俺の価値観では
「あんまり好きじゃないタイプ」の猫が、
目の前の美猫よりも
好きになっていることに気づいたのだ。


旅効果だなと思った。

自分自身でも知らなかった
自分の嗜好や楽しみを知ること。
そのために
田代島まで来たのかもしれないと思った。


帰り道の坂を上って、

『猫神社』の横を通りすぎて、

おいおいこんなところまで来てるのかと
「ネコ太郎」の行動範囲の広さに驚いて、

下り坂を歩いて、

民宿に一度戻って、

いつのまにか好きなタイプになった
白黒ブチ猫の頭をなでて、

他の猫もぼやーっとながめて、

子供たちと荒れた海に向かって石を投げて、

お昼ご飯はカップ麺のうどんを食べて、

またいろんなところで猫をながめて、

今度は荒れてない海に向かって石を投げて
子供たちと水切りの回数競争をして、

「ちゃめ子」と同じ目つきの猫に出会って
その意外な血の広がりに感心して、

またぼんやり猫をながめて、

田代島の一日が終わっていった。


二泊目の夕飯は
小さめのホヤを煮た料理がうまかった。
ずっと食べ続けていたい味だった。
試しに、
ウイスキーの水割りの缶を開けて
ホヤといっしょに味わってみたが、
かなりいける味だった。

世の中、
知らないことが多すぎるなと思った。


前夜とは違う写真集、
でもやっぱり田代島の猫の写真集を
子供たちに読んでやって、
自分の布団に入って目を閉じる。

窓ガラスを叩く風の音がしない。

プロが笑顔で言っていた通りだった。

翌日、
『網地島ライン』は通常通り運航した。


右足の親指をかばって歩いていたせいか、
今度は左足の甲が痛くなった次男と
船着場へ向かって
ゆっくり港の堤防を歩いていたら、
トムキャット柄の黒白猫がついてきた。

その後ろから、モサモサの茶色。

そして、その後ろから白黒の猫。

石巻行きの船が来た。
船に乗り込む。
窓から堤防を見たら猫が三匹並んでいる。

お見送りしてくれてるのか。
いや、どっちかというと、
誰か降りてこないかと見に来たんだろう。


船が出ると同時に、
トムキャット猫が
もといた網置き場の方へと
歩いていく姿が見えた。


田代島 前編 [2015/04]

猫の島、宮城県の田代島に行った。
tashironeko1.jpg
と言ったら、
猫好きの人たちの反応が次々と返ってきた。

「田代島行ったんだ!
 なんで、どうして、私も行ってみたーい」

的な。

むむ。
有名なんだな、田代島。
その田代島になぜ俺は行ったんだろう?
振り返ってみる。


春休みだ、どっか旅行に行こう!
と思ったところで、まず、
「東北」か「東北じゃない」かの選択がある。
旅行を計画する時、いつものこと。
放射能とかの話じゃなく、
時間的距離的な問題として。

今回は東北に行けそうだ、ってことになって、
じゃ、東北のどこに行こうかと考える。

この前観た映画『くちびるに歌を』を思い出す。
島がいいなと思う。
ガッキーみたいに船に乗っていくのがいいなと思う。
ただ、そうすると少し時間がかかる。
何かと文句を言う生意気次男がうるさいかもしれない。

じゃあ猫だ。
猫の島なら、動物好きの次男はぶつぶつ言わないだろう、
ということで、
どっかで猫の島だと聞き知っていた
田代島を目的地にしてみた。

じゃあ宿だ。
田代島の宿は楽天トラベルとかじゃらんでは
予約できない。

一番ご飯が旨そうな気がする…
そう思って『網元』という民宿に電話した。

4月2日に一泊したいんですけど。
おばあちゃんがちょっと間をあけてから、

「猫見にくるんかい?」

と言ってくれて、
そうですそうですと答えて、予約できた。
よかった。


仙台に前乗り、一泊して、
次男の同じ名前の青葉城跡に登ってから、
石巻にある『網地島ライン』の船乗り場へ。

ここから田代島への船に乗る。

11時52分、出発の8分前、
急ぎ足でチケット売り場に入ったら
『網代島ライン』の人が訊いてきた。

「日帰りかい?」

いいえ、一泊します。

「うーん、明日は船、出ないかもよ」

え?

「出たとしても、朝7時40分の船だけかなあ」

マジですか?

「まあ、朝一番の船も80%出ないと思う」

80%欠航。なんで?

「明日は風強いから」

天気荒れるんだ、今日はこんなに快晴なのに。

「泊まると明日帰ってこれないかも。どうする?」

ちょっと悩む。
もう時間がない。
明後日は? 船出ます?

「あさっては……たぶん大丈夫だな」

その笑顔にプロの自信を感じた。
じゃあ、行きます。
船乗ります! チケット買います!!

チケット購入は自販機。
でも、なかなか千円札が入っていかない。
『網地島ライン』の人が
上手に千円札を入れてくれては
ボタンを押してチケットを買ってくれる。
コツがあるのだ。

足早に船に乗ったら、
船はすぐに港を出た。


船に乗ること約45分……
同じ田代島の大泊港に寄ってから、
仁斗田港に到着。
ちょっとドキドキしながら船を降りる。
降りたのは俺たち家族を含めて7人。
船はこの後、終点の網地島へと向かう。

堤防を歩いていると、
向こうから電動バッテリーカー、
いわゆるシニアカーに乗った
民宿のおばあちゃん、
いや、おかあさんと呼びたい感じの
ご婦人が迎えに来てくれているのが見えた。

む。むむむ。
お約束通り、そこやここやに猫がいる。
でもなんか思ってたのとちょっと違う。
長毛種が多いのだ。
モサモサが半分くらい。

猫に忍び寄ったり、かまったりして、
まっすぐ歩かず進むのが遅い子供たち。
それを待って、時々シニアカーを止めながら、
おかあさんが
民宿まで案内してくれた。


部屋に荷物を置いたところで、
とりあえずご相談。

明日は船が欠航するかも……
と、船会社の人が言っていたんですが。

「あらまあ」

出るとしても朝7時40分の便なので、
もし出たらそれで帰るつもりですが、
もしその船も出なかったら、
すみませんが
もう一泊泊めてくれませんか?

「明日、お客さん来るんだよねえ」

と予約状況に頭を巡らせるおかあさん。

でも、そのお客さんたちも船が出なかったら
島にはやって来れないので、
当然、部屋は空くことになる。
ので、大丈夫。
欠航の時には一泊の追加をOKしてもらう。
ああ、よかった。

ホッとしながら玄関を出ると、
さっそく猫が寄ってくる。
一匹、二匹、三匹四匹五匹六匹……

一番最初にやってきた
小さめのシマ猫が、
ごろんごろんとお腹を見せる。

妊娠してるじゃん。

耳の後ろを掻いてやると、
じゃれて甘噛みしてくる。

とりあえずこのシマ猫を
「おかあさん」と呼ぶことにする。


島散策へ。

仁斗田で一つだけある商店の前、
若いお兄さんがカップ麺の蕎麦を
階段状の地べたに座って食べている。
その周りに群がっている猫。
15匹くらい。

上り坂を登っていく。
また、猫の集合場所がある。
8匹ぐらい。
見ているとその中の一匹が寄ってくる。
すると、
もう一匹が近づいてくる。
すると、
また別の一匹も近づいてくる。

こういう猫のたまり場所が
この田代島にはいくつかあるのだが、
同じようなことがどこでも起きる。
好奇心が強いのか、
人間が好きなのか、
食べ物が欲しいのか、
とりあえず一匹が近寄ってくると
他の猫もなんとなく近づいてくる。

そして、
その場を去っていくと、
一匹か二匹がしばらく後をついてくる。
振り返ると、猫がいる。
だるまさんがころんだ、みたいな。

また、
ひとつのたまり場の猫たちは
なんとなく目つきが似ている。

シマ猫、ブチ猫、黒猫、茶色猫、灰色猫、
短毛なの、モサモサなの……
色や柄や毛の長さは違っても、
同じ一族な感じがする。
いろいろなパターンで血がつながっているのだろう。


上り坂をもっと登っていって、
大泊集落方面へ降りるちょっと手前、
田代島名所のひとつ、
『猫神社』にお参り。

ふと見ると、
ベンチの上で寝ている大きめの猫。
顔が丸く太ったシマ猫。
おっさんぽい。

横に座ってなでていたら、
母娘がやったきたので、
こんにちはーと挨拶したら、
その中学生くらいの娘が
感激丸出しの声で叫んだ。

「ネコ太郎!」

聞けば、
このおっさんぽい猫のネコ太郎、
けっこう有名な猫らしい。
ネコ太郎ブログもあるんですよと
お母さんのほうが教えてくれた。


民宿にいったん戻って、
道具を持って、釣りをするため堤防へ。

魚影が薄い。
というか、まるでいない感じ。
まあ、釣れなくてもいいやと
青イソメを針につけて糸を垂らす。

やっぱりアタリがないなあと思いながら
ふと横を見ると、
猫がいる。
遠めから近づいてる最中の猫も数匹。

仁斗田港周辺の一族には、
顔が丸く大きいタイプが多い。
脚が短めなのは、
仁斗田集落の猫全般の特徴。

魚、こないねえ、
まだ眠ってるのかなあ……
などと猫に話しかけたりしながら
数か所で糸を垂らしてみたが、
釣れる気配がない。
風が冷たくなってきたので竿をしまい、
民宿へ戻ると、また
「おかあさん」とその仲間が迎えてくれた。


夕飯まで少し時間があったので、
『マンガアイランド』という場所にも行ってみる。

ネコ型のロッジがいくつか建ったキャンプ地。
シーズンオフで今は閉まっているが、
猫は10匹くらいたまっている。

左目が病気で潰れかかったシマ猫と
右目がない茶色モサ猫が、
追いかけっこをしながら、
コンビで後ろをついてくる。

茶色モサのほうは妊娠しているのだが、
時折、すごい勢いでジャンプしたり
いきなり走り出したりするので、
いっしょに歩いているこっちが不安になる。
何の心配もいらないのだが。


アワビとナマコ。
大好物。
俺にとって最高のご馳走が入った夕飯をいただき、
風呂で温まってから、
布団に入る。

絵本の代わりに、
民宿に置いてある写真集を子供たちに読んでやる。
田代島の猫の写真集。

すると、
俺たちが「おかあさん」と呼んでいるシマ猫は、
この民宿のお父さんが飼っている
「ちゃめ子」という名の猫だとわかった。

小柄で、じゃれついてくるから
若い母猫かなあと思っていたら、
けっこうなベテラン母猫であることもわかった。

電気を消して、目をつぶる。

ヒュー、ぎしっ。

窓が揺れる音を聞いて、
風が強くなってきたなあと思いながら
眠りについた。


         --後編につづく

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。