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トヨタ・プリウス [2012/12]

雪が降り出したというニュースを見ると、
ekimaekoji.jpg
20年くらい前、新潟に行ったことを思い出す。

ある日、突然、
一人で新幹線に乗って新潟まで行った。

競馬やなんかで
新潟には前からなじみがあって、
まったく知らない土地ではないのだが、
その日、
なぜ新潟を目指したのかは、謎だ。

もしかしたら
新幹線でどっか終点まで行きたかったのかもしれない。

東北新幹線だと終点が終点らしくないし、
東海道新幹線で博多まで行くとかなり遠いし、
長野新幹線が出来ていたかどうかは不明だが、
できていたとしても
故郷に帰る気分ではなかっただろうし、
自然のなりゆきで
新潟行きの「とき」かなんかを選んで乗ったのかもしれない。

もう暗かった。
新潟駅を降りて、
近くのビジネスホテルに行ったら運よくシングルが空いていて、
チェックインして、
そのすぐ近くの寿司屋で
競馬新聞を眺めながら日本酒を飲み、
刺身と寿司をつまんで、
それから、北へ歩いた。

万代橋を渡って、
古町を越えて、
ずっとずっと歩いていくと上り坂があって、
そして、海に出る。

日本海。

雪に埋もれて濡れたビーチサンダルの足が、
キンキンに冷たかったことはよく覚えている。


トヨタのプリウスに乗っていると、
いつも考えてしまうことがある。

「俺は、このクルマを愛せるのだろうか?」
あるいは、
「俺は、このクルマに乗っている自分を愛せるのだろうか?」
と。

そんな問いがいつも目の前にあるのだ。

いや、目の前にはもちろん道路とか信号とか、
ヘビみたいな目をしたクルマの後部ライトとか、
渡ろうとして困っているおばあちゃんとかがいるのだが……

そのもっと手前に、
電気を使ったり貯めたりしているのを示している
エコ的なメーターがあって、
それを自然に目にしてしまうのが
プリウスというクルマなのだ。

だから、運転中、
脳の10%くらい、
心の30%くらいを占めているのが、

「俺は環境にいい、エコなクルマを運転している」

というなにげに事実っぽい情報なのだ。

つまり、
プリウスに乗っているという状態は
「地球にやさしい」
という思想に乗っている状態と言えるのだ。

実際、本当に「地球にやさしい」かはおいといて。

すると、
人間はいつの間にか啓蒙されてしまうもので、

「できるだけガソリンを使わないで行く道を探そう」
とか、
「余計な寄り道などせずに効率的に走ろう」
とか、
「残りのガソリンで目的地まで何とか走り切ろう」
とか、

俺にとってはどうでもよかったことを、
あたかも本来の目的であるかのように
自分に押し付けている自分がいるのを発見するのだ。

しかも偉そうな顔をして。

で、さっきの問いが頭の周りをくるくる回る。

「俺は、このクルマを愛せるのだろうか?」
って。


冷たい足で歩きながら、
地面にぺたぺたとビーサンの跡がついていくのを見て、
ダラダラと涙を流していた。

ホント、バカみたいな話だが。

たぶん、
仕事とか女とか将来とか過去とかがフン詰まり状態で、
それを流し出そうとしていたのだろう。

1時間くらい泣き歩きしたあと、
スッキリした気分で
新潟名物のおでん屋さんで、
元気に働くお姉さんたちを見ながら
おでんを食べたような気がする。

今、考えてみると、
泣くための旅だったのだと思う。

もうそんな旅はしないかもしれないし、
そんな旅をしている自分を
昔のように好きでいられるかどうかわからないが、
その時はその旅が必要だったのだろうし、
旅に出れる自由があったことは
とってもラッキーだったなと思う。


今度、プリウスに乗る機会ができたら、
無駄な道をいっぱい通って、
ガソリンをどんどん使って、
目的地なんかも決めないで、
寄り道だらけの旅をしてみたいと思う。

そこで初めて、
俺がプリウスを愛せるかどうかの
答えが見つかるのだろう。



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